七夕の物語は中国(ちゅうごく)大陸で生まれ、海を渡って、日本の国に伝わってきた。
ずうっと昔のこと、中国大陸の東の海辺に住んでいた男が、毎年夏になると材木がたくさん海を流れてくるのでふしぎに思って、いかだに乗ってどこからくるのかさがしに出た。
さがしまわって日がたつうちに、いつのまにか大きな河の河口にはいっていたらしい。あたりがぼうっとして、なにがなんだかわからない。乗っているいかだだけが早く早く動いて行く。気がついたら、銀色に光る川をさかのぼっていた。
ずんずんさかのぼって行くうちに、川の岸にきらびやかな宮殿が並んでいた。その宮殿の中には、それぞれに美しい女がいて、せっせと機(はた)を織(お)っていた。
宮殿と反対がわの岸には、若い男が一人で牛に水をのませていた。川をさかのぼってきた男が、いかだをその若者のすぐそばに着けると、若者はおどろいて、
「どうしてここにきたのですか。」
ときいた。いかだの男がいままでのことを話して、
「ここはいったいどこですか。」
とたずねると、若者は、
「それにはお答えできません。あなたが国にもどってから、蜀(しょく)の国の厳君平(げんくんぺい)のところに行っておききなさい。」
といったあとは、何をきいてもだまっている。しかたなく男はいかだの向きをかえて、川をくだって行った。
海辺の家にぶじにもどった男は、あの場所がどこだったのかが気になってしかたがない。とうとう決心して蜀の国に出かけて行った。
蜀の国というのは、二二一年に劉備(りゅうび)が諸葛孔明(しょかつこうめい)などの助けをうけて建てた国で、四十年ほどしてほろびてしまうのだが、中国の海辺からははるかに遠く、長江(ちょうこう)(揚子江(ようすこう))をさかのぼって、パンダが住んでいるので有名な四川省(しせんしょう)あたりにあった。