天の川をさかのぼった男と宝満川をさかのぼってきた男 七夕ぼん-おごおり探検隊

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23.jpg 長い長い旅をして、男はようやく蜀(しょく)の国についた。厳君平(げんくんぺい)の名をいってたずねると、この人は大へんえらい星占(ほしうらな)いの先生で、住んでいる家はすぐにわかった。で、行って君平先生にあって、あのふしぎな経験を話すと、
「なるほど、それでわかった。」
と大きくうなずいて、先生がいった。
「昨年の夏のことだったな。わしがいつものように空を見ていると、かわった星が一つ天の川をさかのぼって行った。その星は牽牛星(けんぎゅうせい)のそばで止まって、すぐにもどっていったが、あれがおまえさんだったのか。」
 男のほうは首をひねってきいた。
「そのう、天(あま)の川(かわ)とか牽牛星(けんぎゅうせい)とかいうのは、どこにあるのですか。」
「あ、そうか、おまえさん天の川を知らんのか。よし、ちょうどきょうは夏の晴れた夜空だ。ゆっくりと星を見ながら教えてやろう。」
 君平先生は星を見る部屋に男をつれて行って、東の空をゆびさしていった。
「そら、あの天の高いところに青白く光る大きな美しい星があるだろう。あれが織女星(しょくじょせい)というのだ。その星のずっと右の下に白っぽい大きな星が見えるな。それが牽牛星(けんぎゅうせい)だ。織女と牽牛の間を雲のように流れひろがる銀色の川が、天の川だよ。おまえさんが去年さかのぼって行った銀色の川があれなのだ!!」
 男は夜空に光る美しい星たちを、なんともいえない気分でみつめていた。
 しばらくして君平先生はまたゆっくりと話をはじめた。
「あの織女星は、天の神さまの姫(ひめ)でな、すばらしい布を織(お)るので織姫とよばれていた。織姫の織る布は、雲錦(うんきん)というて紫色(むらさきいろ)のうすい布で、日にすかして見れば五つの色に見える。着物に作ると雨にぬれず、寒い時は暖かく、暑い時はすずしい。体にまきつけると体が軽くなってうき上がる。すばらしい布だ。天の神さまは雲錦(うんきん)がいくらでもほしいので、もっと織れ、もっと織れと、きびしく命令していた。姫は髪もとかさずお化粧もせずに織っていたのだな。そのうちさすがにきびしい父親も、姫がかわいそうになって、天の川のむこう岸で牛のせわをしてた牽牛(けんぎゅう)という若者をおむこさんにとつれてきた。するとこの二人は結婚(けっこん)の楽しさにむちゅうになって、機織(はたお)りも牛飼(うしか)いもやめてしまって遊んでばかりいる。どんなにしかりつけても仕事をしないので、とうとうはらを立てた神さまは、牽牛を川のむこうにおい返してしまった。そして一年に一ど、七月七日の夕べだけ、姫が天の川をわたって牽牛にあいに行くのをゆるしたのだ。そのときにはカササギが集まって、つばさを並べて天の川に橋をかけて、織姫をむこう岸にわたしてやるのだよ。これが七月七日の夕べの話、つまり七夕の星の話だ。」
 君平先生の話を男は一言ももらさずに覚えこんだ。