天の川をさかのぼった男と宝満川をさかのぼってきた男 七夕ぼん-おごおり探検隊

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 君平先生は帰る男を門まで送っていった。
「ここから長江をくだって行くと。とちゅうで北から流れこんでくる漢水(かんすい)と出合う。この漢水をさかのぼると、天の川とつながる”ある時”があるそうだ。おまえさんは海から長江へはいり漢水をさかのぼって、その時に出合って、天の川をさかのぼって行ったのだ。なんともはやめでたい男だ。おまえさんのこの先の運命は、豊かで命長く、子孫も多く栄えるであろう。」
 男は、ほくほく喜んでふるさとに帰った。
 天の川をさかのぼった男は、そのあと海辺の村に住みつづけて、君平先生の星占(ほしうらな)いのとおりに金持ちになったし、たくさんの子孫にめぐまれて、長生きした。
 男はこのたくさんの子や孫やひ孫たちに天の川をさかのぼった話をし、厳君平(げんくんぺい)の話をし、七夕(たなばた)の話をした。おもしろがって聞いた人びとは、また、たくさんの人にこれを話した。
 このあと、百年、二百年、三百年と、七夕の話が語りつがれ広がっていった。
 天の川をさかのぼった男の十五代あとの子孫に、柳青(りゅうせい)という若者がいた。そのころ中国(ちゅうごく)は唐(とう)とよばれる時代だった。
 晴れておだやかな日に、柳青(りゅうせい)は小さい船に乗って、海で魚をつっていた。いくらか魚がつれたころ、空が黄色味をおびてきて、なまあたたかい風が吹いてきた。へんだと思ったのですぐに帆(ほ)を上げて、東からの風をうけて村の港に帰ろうとした。と、とつぜん風が反対になった。ものすごく強い西風だ。帆をおろしたくても体が飛びそうで、船底(ふなぞこ)の横木にすがみついているばかりだった。すごい西風は船を東へまっすぐに走らせた。厚い黒雲が空をおおい、いなずまが走る。雷が鳴る。滝(たき)のような雨がおそいかかった。船は山のてっぺんにあがったかと思うと、地ひびきをたてるように谷底にすべり落ちた。また、波の山にのぼり、底に落ちる。そうしながら、東へ東へととんで行く。
 東へ、東へ進んで三日がすぎた。帆(ほ)はちぎれてなくなり、帆柱(ほばしら)も折れて海に消えた。梶(かじ)もなくなり、櫂(かい)もなくなった。柳青(りゅうせい)は船底にしがみついて、助けを天に祈るばかり。